北九州漫画ミュージアム

ひとことブログ

2021年03月13日
(340)東日本大震災関連のマンガを特集 あの日から10年 思い致す

★過去記事のアーカイブ掲載になります。各種情報は新聞掲載時点のものです。★

連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第340回
『西日本新聞』北九州版 2021年3月11日(木)朝刊 25面掲載

東日本大震災関連のマンガを特集

あの日から10年 思い致す

 東日本大震災から今日で10年。あの震災は私たちにさまざまなことを気づかせました。マンガを含む出版については、本や雑誌が手元に届くまでの大勢の人々の膨大な労力を再認識したことが挙げられます。宮城県石巻市などで製紙工場が被災したことによる紙不足。交通の寸断や計画停電による制作や流通の遅延。発行を一時中止した雑誌も少なくありませんでした。

 それは同時に、「紙」による出版の意義を問い直す機会でもありました。多種多様な本や雑誌を紙で大量に印刷し、細長い日本列島の全域へほぼ一斉に運搬するという、作業負荷の極めて高いビジネスを今後も続けられるのかどうか。電子書籍などデジタルメディアへの移行が加速していきました。

 ただ興味深いことに、紙の本の強みを証明したのもあの震災でした。電源要らずで回し読みも簡単。被災地の避難所で回覧されボロボロになった『週刊少年ジャンプ』が話題を呼び、強い印象を残しました。

 そして2020年。コロナ禍で出版も流通も再び危機に見舞われますが、いわゆる「巣ごもり需要」でマンガの市場規模は拡大。紙の雑誌は売上を前年から約13%減らしたものの、紙の単行本は約25%増、電子コミックは約32%増、全体で6千億円を超え、統計史上最大を記録しています(出版科学研究所調べ)。

 日本の社会全体がいまだ、あの日始まった大変動のさなかにいます。北九州市漫画ミュージアムでは、毎年恒例の特集コーナーを設けました。失われたものや変わりゆくものに、思いを致してみてください。

(専門研究員 表智之)

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■第16回手塚治虫文化賞特別賞「あの少年ジャンプ」(朝日新聞社)