2025年05月01日
(537)太田じろうの世界展が開幕 巧みな描写力を堪能
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連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第537回
『西日本新聞』北九州版 2025年4月27日(日)朝刊 12面掲載
太田じろうの世界展が開幕
巧みな描写力を堪能
1950年代から70年代にかけて活躍したマンガ家・太田じろう。近年発見された原画でその画業をたどる展覧会が、北九州市漫画ミュージアムで始まりました。
まるっとしたフォルムのキャラクターと愛嬌のある物語が可愛らしい代表作「こりすのぽっこちゃん」は本コラム第531回でも紹介しましたが、それ以外にも、彼は数多くの児童まんがを手がけています。光文社の月刊誌『少年』で54年に連載開始した「がんばれガン太」は初期のヒット作の一つで、明治時代に生きる相撲少年が主人公。伸びやかな曲線や、ユーモアあふれる表情など、巧みな描写力にうならされます。
65年、心筋梗塞を患った太田は、仕事の量を減らす一方で、活躍の舞台をマンガ以外の領域に広げます。たとえば、雑誌の表紙イラストや絵本の挿画、学習漫画の執筆などです。本展では特に、晩年といえる70年代後半の仕事を紹介しています。
リアリスティックな画風と華やかな色彩で目を引く『リイドコミック』(リイド社)の表紙イラストは、大人の男性を読者とする雑誌カラーにあわせたテーマ設定と艶やかな女性たちの姿が印象的。彼の「絵のうまさ」を存分に味わえます。
78年から80年にかけて学習研究社から出版された学習漫画「学研まんが人物日本史」シリーズでは、徳川吉宗、西郷隆盛、福沢諭吉の巻を担当。リアルとデフォルメを華麗に行き来する描画、テンポの良い話運びなど、太田がそれまでの画業で得た技術や経験の全てが詰まっているのが学習漫画での仕事です。
彼の30年にわたる歩みを、ぜひ会場でご体感ください。
(学芸員・石井茜)
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