2025年05月08日
(538)藤見よいこさんの「半分姉弟」無意識の偏見、誰にでも
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連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第538回
『西日本新聞』北九州版 2025年5月4日(日)朝刊 14面掲載
藤見よいこさんの「半分姉弟」
無意識の偏見、誰にでも
マイクロアグレッションという言葉があります。悪意の有無にかかわらず、無意識の思い込みや偏見による言動で相手を傷つけることを指します。
差別されたくないし、差別したくない。これは多くの人に共通する思いでしょう。しかし達成するのは容易ではありません。見た目や属性で人を判断してしまうことは日常的にあり、誰もがいつだって加害者になり得ます。多くは気付かないうちに。この迷宮から脱するには、自らの先入観に気付き、人々の多様な在り方を知ることが不可欠で、時に、エンタメ作品がその助けとなります。
北九州ゆかり作家である藤見よいこ先生の最新作「半分姉弟」は、“ハーフ”と呼ばれる人々の日常を描いたオムニバスです。
第1話の主人公・和美はフランス人で黒人の父と日本人の母を持つ、日本で生まれ育ったWEBライター。「日本語上手だね」なんて、褒めているようで日本人扱いしない言葉を笑って流し、怒りも悲しみも押し殺すのが当たり前の生活を送っています。第2話は、中国人の母を持つことで自身は「異質である」と長年苦悩する美容師・紗暎子が主人公です。
本作は、彼女たちの毎日をちゃめっ気を交え軽やかに描く一方で、ただ暮らしているだけで社会的に抑圧され、じわじわと広げられていく心の傷を明らかにしています。自身もスペイン人の父を持つ藤見先生が、多くの当事者に取材を重ね、多様な視点を盛り込んで真摯に描く「半分姉弟」。「見えていない」ことに気付かせてくれるサーチライトのような存在であり、より多くの人に読まれてほしいと願う作品です。
(学芸員・石井茜)
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