北九州漫画ミュージアム

ひとことブログ

2021年10月20日
(363)一条ゆかり展 原画の美しさを味わって

★過去記事のアーカイブ掲載になります。各種情報は新聞掲載時点のものです。★

連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第363回

『西日本新聞』北九州版 2021年10月14日(木)朝刊 18面掲載

一条ゆかり展 原画の美しさを味わって

 現在北九州市漫画ミュージアムで開催中の「一条ゆかり展」では、代表作の名シーンを抜粋した約90点のモノクロ原画と、雑誌の表紙や各話の扉(タイトルページ)のために描かれた80点以上のカラー原画をご覧いただけます。あわせて、作品が掲載された『りぼん』などの漫画雑誌も並べて展示しているのですが、印刷されたものと比較して見ることで、原画の緻密さと彩色の鮮やかさに驚かされるはずです。

 漫画雑誌のモノクロページは安価な再生紙を使用しており、目の粗い紙質のため、細かな描線や繊細なグラデーションが再現されにくい面があります。またカラーページは、一般的にコート紙と呼ばれるつるりとした紙が使用されますが、作家の意図した色が発色するとは限りません。一方で、一条のモノクロ原画は、特にペン画においては硬質で細やかな線が特徴的。瞳を縁取る華やかなまつげや、装飾的な背景効果など、シャープでおしゃれな独自の画風は、原画でより堪能できるでしょう。水彩絵の具やカラーインクといった漫画における一般的な画材のほか、日本画用絵の具や泥絵の具、パステルなど、特殊な画材も巧みに織り交ぜて描かれたカラーイラストについても、原画だからこそ感じられるニュアンスがあります。それぞれの紙・画材ならではの凹凸やにじみ、色の濃淡と発色の鮮やかさは、印刷物を見慣れた私たちに鮮烈な印象を与えます。

 美しさと迫力を兼ね備えたゴージャスな原画を、じっくり味わえる絶好の機会。「芸術の秋」のひとときに、「一条ゆかり展」をぜひ。

(学芸員 石井茜)