北九州漫画ミュージアム

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2024年04月29日
(487)浦安鉄筋家族 原画にみる技術革新

★過去記事のアーカイブ掲載になります。各種情報は新聞掲載時点のものです。★
連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第487回
『西日本新聞』北九州版 2024年4月28日(日)朝刊 12面掲載
浦安鉄筋家族
原画にみる技術革新

 北九州市漫画ミュージアムで開催中の「浦安鉄筋くだらね~展」は、「浦安鉄筋家族」シリーズの連載30周年を記念して企画された展覧会です。1993年に始まった同作ですが、この間に、漫画制作の現場では大きく技術革新が進みました。

 いわゆるデジタルツールの進化によるもので、下描きからペン入れ、背景・模様などの加筆や着彩、そして原稿の提出まで、すべての作業をPC(パソコン)などで行うことが可能になったのです。それぞれの制作スタイルやこだわりにより、どの程度デジタル技術を用いるかは千差万別ですが、「浦安鉄筋家族」の作者・浜岡賢次先生の手法には独特の点があります。

 浜岡先生は近年まで全てアナログで作業していましたが、2017年以降の原画を見ると、キャラクターの主線やオノマトペ(擬声語・擬音語)、吹き出しはペンによる直筆で、背景やトーン・ベタといった装飾部分はPCで完成させたことが読み取れます。面白いのは、原稿用紙にコマの枠線や、背景・小物などの下描きが薄い水色で印刷されていること。つまり、PC上で作画したものをあらかじめ原稿用紙に印刷しておいて、そこにペン入れし、完了したらまたPCに取り込んで、仕上げを行うという、三段階の工程になっているのです。

 主要キャラの自宅や教室などたびたび登場する背景は、さまざまな構図で印刷できる3DのCG画像をあらかじめ制作し、リアルかつ統一性のある背景を手軽に描き加える工夫がされています。現実的な生活感が重要な本作において、とても理にかなった技術革新と言えるでしょう。そんな「変遷」も原画から感じ取りつつ、本展をぜひお楽しみください。

(学芸員 石井茜)

=MEMO=
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