北九州漫画ミュージアム

ひとことブログ

2020年06月15日
(306)「恋い恋いつづり 文豪からの恋手紙」漫画で新しい世界広げて

連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第306回
『西日本新聞』北九州版 2020年6月7日(日)朝刊 14面掲載

「恋い恋いつづり 文豪からの恋手紙」
漫画で新しい世界広げて

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止策として「新しい生活様式」の実践が求められるなか、家の中でできる趣味を始めたり、本やネットで新しい知識を身につけたり、今までとは違うことにチャレンジしている方もいるのではないでしょうか。

 こんなとき、やはり漫画は私たちに寄り添ってくれます。1冊読むだけでもその面白さで心を癒してくれますし、ひとつの漫画作品から興味や関心がさまざまな方向に伸びて、自分の世界が広がるきっかけになることも。

 例えば、5月に発売された、北九州市ゆかり作家の藤見よいこ先生による「恋い恋いつづり 文豪からの恋手紙」。文豪たちが残した手紙や逸話をもとに、彼らと彼らが愛した人々の軌跡を豊かに、時に甘やかに物語る作品です。人間味あふれるドラマに魅了されるのはもちろん、作中に登場する手紙からうかがえる人柄に、文豪自身や彼らが生み出した作品へも自然と興味を引かれます。また、書く人の心を映す「手紙」の良さにも気付かされます。「文学作品」とは一線を画すパーソナルな文章からは、文豪たちの愛嬌や切実な想いが伝わり、そんな彼らの姿を感じると、今は直接会えないあの人に一筆書いてみようか、とそんな気にもなるのです。

 キャリア初期の作品で、戦国武将とその妻という“ふたりの関係性”に着目した「ふたりじめ」「ふたりごと」(共に実業之日本社・刊)でも、歴史資料やさまざまな文献を独自に解釈し、切なくも温かい愛の物語を紡いだ藤見先生。作家の真骨頂とも言うべき鮮やかな恋物語を通して、新しい世界を広げてみませんか?

(学芸員・石井茜)

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