ひとことブログ

2022年05月14日
(389)会期末迫る「矢口高雄展」 「2色カラー」の妙技

★過去記事のアーカイブ掲載になります。各種情報は新聞掲載時点のものです。★

連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第389回

『西日本新聞』北九州版 2022年5月8日(日)朝刊 18面掲載

会期末迫る「矢口高雄展」
「2色カラー」の妙技

 北九州市漫画ミュージアムで好評開催中の「矢口高雄展-夢を見て 描き続けて-」は、会期末の15日まで残りわずかとなりました。大ヒット作「釣りキチ三平」で知られ、自然の美しさと厳しさを細密かつ大胆に描いてきた漫画家・矢口高雄。1970年のデビューから50年にわたったその画業を振り返る原画展です。今回が原画、すなわち漫画原稿を生で鑑賞する楽しみの一つ、「2色原稿」をご紹介しましょう。

 印刷工程の変化などで近年はなくなったのですが、かつて漫画雑誌には「2色カラー」のページがありました。青・赤・黄・黒のインキの混合で一通りの色を印刷するフルカラーより割安な、赤・黒の2色のみの安価なカラーページのことです。

 もちろん漫画原稿も、墨汁など黒に加えて朱色の絵の具を使って描くのですが、これが作家泣かせでした。こつをつかめば、赤と同系統の茶色やオレンジ色を表現したり、薄い黒を青や緑に錯覚させたりすることもできるのですが、勘が頼りでマニュアル化しづらい。新人作家は、2色原稿が巧みな先輩作家に直接手ほどきを受けていたようです。

 矢口はそもそもの描写力の高さに加えて、2色原稿のうまさでも知られます。写真は有明干潟のムツゴロウ釣りの場面ですが、干潟の泥やムツゴロウの体など茶系統の色を水の青とたくみに描き分け、かつ、真っ赤な夕焼け空によく映えて実に美しい。赤と黒の2色だけなのに不思議とカラフルで、原画を生で見ると、さらに鮮烈な印象です。

 矢口高雄展には他にも珠玉の原画の数々が並び、全293点をご覧いただけます。どうぞお見逃しなく!

(専門研究員 表智之)

=LINK=
企画展「矢口高雄展 夢を見て 描き続けて」
「横手市増田まんが美術館」公式サイト