北九州漫画ミュージアム

ひとことブログ

2023年10月01日
(455)夭折の漫画家 三隅健 描いた“非日常的日常”

★過去記事のアーカイブ掲載になります。各種情報は新聞掲載時点のものです。★
連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第455回
『西日本新聞』北九州版 2023年9月3日(日)朝刊 18面掲載
夭折の漫画家 三隅健

描いた“非日常的日常”

  多数のゆかり作家の存在と、豊かな漫画文化から「漫画の街」を標榜する北九州市。歴史的に産業の中心地であったことが、漫画文化の醸成に繋がったことが分かっています。県最北端の本市に対して、最南端に位置し、石炭産業で栄えた大牟田市にも、古賀新一、萩尾望都、鴨川つばめといった一時代を築き上げた漫画家たちに代表されますが、同様な背景を基にした漫画文化が育まれています。

 今回紹介するのは、1974年、この地に生まれた漫画家・三隅健(みすみ・たけし)です。中学生の頃から漫画を描き始めた三隅は、成人後、漫画雑誌に投稿を始めます。いくつかの雑誌で高評価を得つつ、その才能が大きく認められたのは2008年、『月刊IKKI』(小学館)が主催する新人賞でした。受賞作「ムルチ」は、人間に触られると1週間で死んでしまう不思議な生物(ムルチ)を通して描かれる、少年と少女の冒険譚。みずみずしい感性に将来を嘱望された三隅ですが、本作を発表した同年、34歳の若さで急逝しました。

 思春期特有の少々鬱屈とした日常が、不思議な存在との出会いや小さな冒険によって非日常に転じていく―。彼の作品にはこのテーマが繰り返し現れますが、青春時代の悩みとそれに伴う成長を暗喩したような“非日常的日常”の物語は、いつ読んでも爽やかな感動を与えてくれます。

 没後15年を数える今年、三隅が遺した漫画原画と、幻想的なモチーフと色使いが印象的な絵画作品を一堂に集め展示します。「日常と非日常の境界線みたいなのが好きです」と語った作家の空想世界を、ぜひ間近でご覧ください。

(学芸員 石井茜)

=MEMO=
「三隅健原画展 非日常との境界」の詳細はこちらのページへ