北九州漫画ミュージアム

ひとことブログ

2023年12月23日
(468)漫画「生きとし生ける」門司港に残る戦争の記憶

★過去記事のアーカイブ掲載になります。各種情報は新聞掲載時点のものです。★
連載コラム『出会い 探検 漫画ミュージアム』第468回
『西日本新聞』北九州版 2023年12月3日(日)朝刊 16面掲載
漫画「生きとし生ける」
門司港に残る戦争の記憶

 北九州を舞台にした漫画作品は近年も多々生まれており、このコラムでも10月に「ナリキンフットボール」(原作:清水海斗、作画:明石英之)を紹介したところです。今年から連載が始まった“北九州ゆかり作品”が実はもうひとつ。門司区を舞台にした、長谷川未来先生による漫画「生きとし生ける」です。

 現在WEBコミックサイト『コミプレ』で連載中の本作は、土地と人に残る戦争の記憶を丹念に掘り起こすヒューマンドラマ。東京で活躍する小説家・古賀と、地元でアイドルとして活動する望(のぞむ)が門司港の船着き場で出会うところから物語は始まります。一見接点のないふたりですが、古賀の祖父と望の曾祖母には、戦争が結び付けたとある縁がありました。地域の人々から戦中戦後の体験について聞き、歴史的な風景を残す今の門司の姿を見て、古賀は「ここの話を書く」と決意します。

 本作では、たびたび現在と過去の門司の風景がオーバーラップするように描かれます。現在「出征の碑」が建つ門司港は、出兵の拠点でした。空襲にも見舞われたこの場所で、ふつうの人々は戦時下を、混沌とする戦後をどう生き何を感じていたのか。過去と現在が地続きであることを確かに感じさせてくれる、北九州に住む皆さんにこそ読んで欲しい「わたしたち」の物語です。

 北九州市漫画ミュージアムでは、北九州のことばや風景、歴史がふんだんに登場する本作について紹介するミニ展示を開催します。12月5日に第1巻が発売となる「生きとし生ける」。ぜひこの機会にご一読ください。

(学芸員 石井茜)

=MEMO=
「舞台は北九州―門司港『生きとし生ける』紹介展示」の詳細はこちらのページへ
『生きとし生ける』連載ページはこちら(WEBサイト『コミプレ』へのリンク)